対談/岡部賢二先生
本葛を食べて心と体の“プチ断食”
腸内細菌を活発にさせる葛は、もっと高く評価されるべき食品
岡部賢二先生プロフィール
自然食材で健康的な生活を目指す研究を続けているフードアンドメディカルコンサルタントで「ムスビの会」を主宰。マクロビオテックの指導者でもあり、新月や満月の月のリズムを利用して行う“プチ断食”を新たに提唱。本葛を製造している廣久葛本舗にて「月のリズムで暮らす秋〜本物和食材 本葛で心と体のプチ断食セミナー」を開催。
本葛を使って“プチ断食”!? 新たな葛の使い方を提案!
- 髙木
- 岡部先生が提案する『月のリズムでプチ断食』は、“絶食”ではなく“食べて断食”をするというものだそうですが?
- 岡部
- 断食というのは、昔から僧侶が精神鍛錬の修行の一つとして行っていた例や民間の食事療法の一つとして行われた例があります。また、ある国では重要な宗教的行為としても行なわれています。
- 私が提唱する“プチ断食”は、『絶食するのではなく、いつもの夕食を一食抜く代わりに葛で溶いた玄米甘酒などを食べる』というものです。現代人は概ね食べ過ぎなんですね。だから消化が追いつかず不完全燃焼のまま未消化物や老廃物が血管の中や腸の中に溜まり、それが生活習慣病などの一因になっている場合が多いと言われます。
- そこで、「健康のために断食をやってみませんか」と言うと、お腹が空くのは嫌だ、低血糖になるかもしれないので怖い、リバウンドが心配・・・など、みなさん一歩引いてしまうんです。そういう不安がなく誰でも安心して取り組める方法はないかと思案して行き着いたのが、食べる断食・・・“プチ断食”なんです。
- 夕食の代わりにする玄米甘酒は、米と麹だけでつくられていてビタミンやミネラルが豊富で十分なカロリー補給になります。また、酵素も100種類ほどあるので腸内環境にも良いんです。ところが、甘酒は体が冷えて体質に合わないという人がいて、それでいろいろ試行錯誤するうちに葛に行き着いたんです。葛のことをいろいろ調べていくと、葛は腸内環境にとってすごくいい食品であることがわかり、“プチ断食”がより一層、価値あるものになったんです。
- 髙木
- 昔から葛湯を飲めば体が温まり、お腹の調子が悪いときよく食べさせられた記憶があります。
- 岡部
- 葛は『難消化性デンプン(※1)』の一種で小腸では吸収されにくく大腸まで届くというのが大きな特長です。現代人は消化のいいものばかり食べているのでブドウ糖などは小腸で吸収されてしまい、ほとんど大腸には届きません。その大腸にはブドウ糖を“エサ”とする多くの腸内細菌が常在しているんですが、エサが入ってこないと腸壁の粘液を食べ始め大腸壁は肌荒れ状態になり、また、便をコーティングするはずの粘液が減るため便が“つるん”と出て行きにくくなって便秘状態に陥ります。そこに葛が届くことで大腸の腸内細菌の恰好のエサになり、腸内環境がだんだん整っていくことがわかってきました。
- 髙木
- なるほど、お腹の調子が悪いときには葛がいいとずっと言われてきた理由が明らかになってきたわけですね。昔の人は経験を通してそういうことを知っていたんでしょうね。
- 岡部
- その腸内環境のバランスが、私たちの健康にとても大きな関わりを持っていることがテレビで報道され注目されているんです。それは「プロバイオティクス」と言って腸内環境が与える健康への影響を探る最先端の医学・・・つまり、体質というのは腸内細菌のバランスによってできあがっていて腸内細菌が活性化すると短鎖脂肪酸というものをつくり、そのバランスが人の健康にかなり関係していることがわかってきたんです。
- 日本人は昔から「腹黒い」「腹を探る」とか「腹が立つ」など、腹が人の意思の象徴であるかような言い方をしているのは、“腹こそ生命の要”であるということを知っていたからじゃないでしょうか。
- すでにアメリカでは、腸内細菌を活性化させるプロバイオティクス食品が登場しているそうですが、葛はそれらに比べても素晴らしい食品です。もっと高く評価されるべきだと思いますが、ただ、寒根を絞って晒してつくる本物の葛デンプンでなければそれは叶いません。
- 髙木
- 化学の進歩で葛にそういった性質、側面があったとは驚きますね。これまでずっと本物を作り続けてきた私にとっては、とても喜ばしいことですし、つくり続ける意欲が湧いてきました。
- 岡部
- 現代科学で葛は薬効的にも素晴らしい効力があることがわかってきています。その一つが「ダイゼイン」という成分で、「イソフラボノイド」という呼ばれ方をされています。なにより葛は薬ではなく食品なので安全ですし、しかもいろいろな働きが期待できるのではないかと私は思っています。
- 髙木
- うれしいお言葉ですね。健康になるためには健食サプリのほうがいいと言う人も多いんですが、どうでしょうか?
- 岡部
- 人を健康に導くという意味では、葛はサプリなどとは全く違うハイレベル食品だと言えます。以前、アメリカで『Book of Kudzu』という葛の本がベストセラーになったことがありますが、それは葛が健康に導く薬効がある食材だったからです。
満月と新月のパワーを利用して“プチ断食”
- 髙木
- ところで、先生が提唱する“月のリズム”とはどういうことなのでしょうか?
- 岡部
- 『月のリズムとダイエット』(サンマーク出版刊)という私の著書で詳しく書いているのですが・・・潮の満ち引きは月の引力が関係していますよね。ある著名なアメリカの精神科医が「体の60~65%が水分(血液や体液など)である人間の体内でも『潮汐作用(※2)』が起きている」という仮説を立てました。そして、「満月や新月のときには心身の緊張が高まり、半月のときには弛緩する」「満月や新月のときには生命力が高まり、半月のときには弱まる」という基本的なリズムがあって、人間の体の中では満月(旧暦の15日は十五夜)から新月に向けて欠けていく月では「排泄」「解毒」が、新月(旧暦の1日)から満月にかけて満ちていく月では「吸収」の作用が増すということを見出しました。
- そこで、そういう宇宙的なパワーを人の健康的な体質改善につなげていく方法はないかと思案し、月のパワーが一番大きくなる新月と満月の日に夕食を抜いて葛に溶いた玄米甘酒を代わりに食べる“プチ断食”の意味を見出したんです。
- そこで、そういう宇宙的なパワーを人の健康的な体質改善につなげていく方法はないかと思案し、月のパワーが一番大きくなる新月と満月の日に夕食を抜いて葛に溶いた玄米甘酒を代わりに食べる“プチ断食”の意味を見出したんです。
- つまり、プチ断食は、満月の頃は胃腸の弱い方、消化吸収の悪い方にとっては胃腸が休まり、その後、少しの食べ物で十分太れるような消化吸収力のいい体質に改善され、反対に新月の日は、体内に取り込んでしまった食品添加物や農薬、環境ホルモンや重金属などが体外に排出されやすくなるということなんです。
- 髙木
- 確かに身体のほとんどは水分ですから月のパワーの影響はあるかもしれませんよね。満月を見ていると清らかな気持ちになるのはそのせいかもしれないなぁ。それに、ここは秋月、月のきれいなところですからプチ断食にはピッタリの場所ですね。
- 岡部
- その秋月の“月”と、プチ断食に欠かせない本葛をつくる葛屋さんが昔からここにあるなんて、私にとっては奇跡が二つ重なったような感じです。
- 私はマクロビオテックの指導もやっているのですが、その世界でも葛はあらゆる手当に欠かせないものなんです。例えば、蕎麦でも片栗粉を使うのではなく葛粉を使ってあんかけ風にし、けんちん汁などにも使っています。
- 髙木
- この筑前地方にも、いろいろな根菜を小さくサイコロ状に切って、それをけんちん汁みたいに煮て葛を入れとろみをつけた「だぶ」という冠婚葬祭の席などでよく出される郷土料理があります。この辺では「葛掛け」と呼ばれています。
- 岡部
- 昔の人は、薬効的、成分的なものはわからなくても、食べると何となく調子がいいとか体質が良くなるということを長い経験の中で知り、そういう食べ方をしてきたのでしょうね。素晴らしい食の習慣だと思います。
『一物全体』の考えから、腸の健康のために本葛と葛葉茶を両方摂る!
- 髙木
- プチ断食では、「ヨモギ」と「スギナ」もお勧めしているそうですね?
- 岡部
- ヨモギは肝臓の働きを後押しする力が高いと考えられています。肝臓は解毒作用を持つ臓器でもありますからね。一方、スギナは、ケイ素という成分が多く含まれていて、『酸化還元の還元作用(※3)』の働きをすると考えられています。いわゆる錆びとり、こびりついた汚れの除去、排泄ですね。とくに血管のお掃除、デトックスと思っていただいたらわかりやすいですね。
- また、マクロビオテックでは、根も葉っぱも皮も食べるという『一物全体』の考え方が原則なんです。ですから葛の葉でつくった「葛葉茶」と「本葛」を両方を摂ることで陰陽のバランスが非常に良くなると私は考えています。
- 髙木
- その「葛葉茶」には鉄分やビタミンC、先ほどの「ダイゼイン」などの成分も多く含まれているので皆様にお勧めしているんですよ。
- 岡部
- プチ断食した後は体も頭もすっきりして喜びが湧き立ってくるような感覚があるんですね。そうすると前に向かっていく気力が生まれ、やる気や創造力が“腹の底”から湧き出てくるような気がしてきます。それは、葛を食べること腸内から健康になり元気になれるということだと思います。プチ断食は、誰でも安心して取り組めますから、今度の新月か満月の日からトライしてみてはいかがでしょうか。
- 髙木
- 「月のリズムでプチ断食」は、単にダイエットが目的だと思っていましたが、葛を食べることで現代医学が注目する腸内環境のバランス改善に働くという事実を知り、昔ながらの伝統的製法による本葛づくり職人として誇らしく思うと同時に、また一つ、本葛を継承する意味を見出した気がします。ありがとうございました。
(※1)「難消化性デンプン」とは水溶性食物繊維の一種で、人の胃や小腸で消化吸収されにくく、大腸内の腸内細菌によって発酵し、ブドウ糖に分解されて大腸内で吸収される。
(※2)「潮汐作用」とは、60~70%が水分でできている人体も、潮の満ち干きなどと同じように月の引力の影響を受けている。
(※3)「酸化還元の還元作用」とは、錆びとり、こびりついた汚れの除去と同じように食物も人体の血管のデトックス作用がある。