廣久葛本舗

髙木久助 対談集 信友智子先生

対談/信友智子先生

産前産後の食と育児の心得

産後の体力回復や母乳の質を考えた食材選び

信友智子先生

春日助産院 秋月養生処信友智子先生プロフィール
1965年4月1日、初代・大牟田喜香により春日町大字下白水の地に春日助産院開業。翌年より託児施設開所。1975年、社会福祉法人春日福祉会設立。現在の春日中央保育園。その後民間委託で春日原保育所(旧春日東保育所)・春日白水保育所も運営。 1978年、春日市昇町6丁目102番地に移転。2005年、信友智子が跡を継ぐ形で新院長に就任。2014年、春日市より現在の秋月(朝倉市長谷山)に移転。現在に至る。

里山に抱かれた“茅葺き屋根”の助産院

髙木
この茅葺き屋根の産院は、先生のお考えで新しく建てられたんですか?
信友
はい。今一番自分が心地いい場所に移り住んで、地域に根ざしたお産、子育てをやろうと決心し、子どもの頃からなじみのあったこの秋月で、この里山の風景にスーッととけ込むようにと考えて茅葺屋根の産院にしました。それを見て「不便じゃないですか?」とおっしゃる方がいますが、猛暑でも空調つけるのがばからしいくらい快適なんですよ。
髙木
つまり、自然のなかでお産をするわけですね。以前はどちらに?
信友
福岡県春日市です。1965年に母が助産院を開業し、2005年に代替わりをして私が受け継ぎました。昔のお産は、けっこうギリギリまで家に居てもらって「こうなったら来なさい!それまでは我慢しなさい!」と半ば根性論でやっていたんですが、今は妊婦さんもまわりもそれは心配だから早く助産院に行った方がいいと、お産する側の人の変化に対応する必要性が出てきました。
 その方たちをずっと見ていましたら、あることに気がついたんです。ふだんの食生活がお産に影響しているのではないか・・・そう思うようになって37才から本格的に食の勉強を始めました。今、うちの産院に来られたら、まず「何を食べるか、なぜ食べるか」、日々、胎児に今ご飯を食べさせているんだという意識を持たせることから始めています。そして将来、うるさいお婆さんになって地域の子どもたちの成長を見守っていくグランドマザーを育て、「ゆくゆくはあなたがそのリーダーになるのよ」「そういう意識を持って子どもを産み育てるのよ」と、そういうことを大事にしながらやっています。
髙木
すばらしいですね。人づくり、地域づくりまで考えているわけですね。
信友
今の若い妊婦さんの多くは健康についての知識が乏しいですね。また、妊娠すると腰が痛い、足がむくむなどいろいろと身体に変調が表れます。私の経験では、妊娠の後半期に便秘や貧血になる人が多いと感じていて、それはほとんど食生活に問題があると思っています。ですから、どんな食事をしているか食事日記を書いていただきます。そうすると、お味噌汁をあまり食べていないことなどがわかりますので、「食材はまず日本の土壌が生み出すものを食べなさい。米、五穀、野菜そして厳しい環境でも育つもの・・・たとえば、あわ、ひえ、きび、葛もそうですよね。また、海のミネラルを吸収している海藻、また、大豆はとくに大事ですよ」と基本から教えています。すると、「お通じが良くなりました」など自分の身体の変化がわかってきて貧血も薬ばかりに頼らずとも食事で改善されていくんですね。そうしていくことが産後のお母さんの体力回復や母乳の質にもつながるんです。
 葛にいたっては、生命力の源である根っこにあるデンプンですから、まさに大地そのものですよね。単にビタミンAがいいとか、何にいいからといって通販のサプリメントのどれを買おうかというような話じゃなくて、葛、豆、小豆など大地が与えてくれるものをきちっと摂って子どもに渡すという食生活を身につけることが大事なんです。


昔は少なかった赤ちゃんの乾燥肌や低体温

髙木
母親になるということは、食の部分を含めいろんなことを見直さないといけないということですね。
信友
そうです。今、昔と違うことがたくさんあります。たとえば産まれてくる赤ちゃんの多くが乾燥肌だということ。主な原因は、エアコンです。産まれたときからエアコンのなかで育っていきますから自ずと発汗機能とか脂の分泌などの皮膚の機能が低下してしまうんです。
髙木
発汗しないということは体温調節がうまくいかないですよね。
信友
いわゆる排泄機能は昔の子よりは弱く、しかも低体温は大きな特徴です。ずっとエアコンの適温で育つので、寒いとか暑いとか気候変動に対して自律神経の調整が下手な子が増えているんです。保育園でも暑いときには「はい、みんなお茶飲みましょう」でOKだったんですが、今、お茶をいっぱい飲ませても発汗ができないので熱中症になりやすいんです。
 ところが、この産院で真夏に産まれた子は、扇風機は回して空気は動かしますけど基本、クーラーはないので暑いんですがちゃんと適応していきます。お母さんも暑い暑いといいますけどすぐに適応していきます。

味噌汁を葛で溶き、お吸い物も葛でとろとろにして離乳食に

髙木
離乳食についてはどのようにお考えですか?
信友
基本的に親が食べているものを形を変えて与えるのが離乳食です。ふだん食べているご飯とか味噌汁とか、髙木さんの葛を使った料理とか葛湯とかも含めて、最初は「液体に近い状態」、次に「ドロドロ」、次に「つぶつぶ」といった形状にして赤ちゃんの歯の生え方と咀嚼の力の月齢に合わせて食べさせていく・・・1、2ヶ月は個人差がありますからスタートが早い子もいればまだまだ母乳だけで食べ物に興味がない子もいます。そこは、その子を見ながら始めるというのがポイントです。消化能力の準備ができていない子に離乳食を無理やり与えると、まず食べません
髙木
つまり体が本能的に嫌がるということですね?
信友
そうです。だからママが食べるものに興味を示し、唾液をたくさん出すようになったら始めてみる。お母さんが食べているお味噌汁とか、そういう液体ものから始めて、葛湯などは少し水分を多くしてゆるめに。また、葛で溶いた味噌汁や普通のお吸い物も葛でとろとろにしてあげれば子どもにとってはいい食べ物になっていくし、その味を覚えていく。またおやつもゼラチンでゼリーをつくるより葛とか寒天とか日本に昔からあるものでつくっていくのがベストですね。
髙木
葛はほかにどんな使い方をされていますか?
信友
うちは、産後直後に葛湯を飲ませます。出産というのは体全体がまず疲労していて血もある程度失います。その分、体温が失われますので体を温めるため生姜を入れた葛湯や夏場なら甘酒をミキサーで粒がなくなるまでトロトロにし、それを上からかけた甘く美味しい葛湯を飲ませています。
髙木
それは、赤ちゃんの離乳食としても?
信友
もちろんです。

「葛」と「本葛」、その違いと正体にショック

信友
以前、葛はどれも同じと思っていたし葛といえば吉野かなと思っていたので健康食品屋さんで売っている吉野葛を買っていました。髙木さんから、中身は本物の葛ではないと聞いて、最初は「どういうこと?」と思いましたが、真相を知ったらとってもショックでした。
髙木
昔からの伝統製法で、掘り子さんが掘ってきた国産葛根(かんね)から製造し、正真正銘の「本葛」を販売しているのは全国でも数が少なくなっています。一般のものはサツマイモ(甘藷澱粉)とか他の澱粉、あるいは中国産やいろいろな添加物を配合して販売しています。以前は、内容表示をしなくてよかったので他の澱粉を混ぜたものでも「本葛」として売られていました。甘藷澱粉などはメチャクチャ原価が安いですし、「本葛」と言えば高く売れますから儲かるわけです。でも、そこのところはもう少しはっきりさせましょうと葛組合で取り決めをし、混ぜ物をしているのは「葛」、していないものは「本葛」で統一しましょうということになったんです。ただ、組合に入っていないところは、本葛が入っていれば「本葛」として販売していますので「本」が付いていても本物でないということになっています。
 最近は、SNSを通して本葛もいろいろ種類があるとか、薬品処理をしているものがあるとか、国内産じゃないようだ、他の澱粉なのに葛として売っているなど消費者の方の文章を見かけるようになりました。ネットを通じてだんだん本当のことが浸透し始めているようです。うちのホームページを見て「混ぜ物が入っていない本葛ですか?」という問い合わせが増えてきました。先日も奈良県の吉野、まさに吉野葛のお膝元の料理屋さんから、ずっと吉野葛を使って親の料理を引き継いだが、どうしても同じものができない。たまたまうちのホームページを見て購入して使ってみたら、昔、親父が作っていた料理と同じものができたと喜んでいました。
信友
私も以前は、葛と言えば吉野だと思っていましたからね。
髙木
本葛も他のデンプン、薬品処理、外国産を混ぜたものなどがありますから裏の原料表記・産地表記をしっかりと見て選んでいただければと思います。安いものには訳があるということです。
信友
なるほど。しっかりした母親になるためには、その前に賢い消費者にならないといけないということでもありますね。
髙木
地域のためにも、日本の将来のためにも、そういうお母さんたちをどんどん育てていってください。本日は、ありがとうございました。